(海外文献紹介: "Metal Spinning ・・・ Ancient, Yet Ageless / Metaforming, August, 1997")

ヘラ絞り・・古くて新しい加工法

ヘラ絞りは世界最古の加工法の1つで、古代中国のロクロが発祥といわれています。現代においても、実用的、経済的かつ精密加工が可能な技術として重用されています。その用途は試作品や少量生産品という限られたものから、コンピュータ化などによって大量生産などの新しい分野に拡大しつつあります。
ヘラ絞り加工法は、金属加工の常識から見ると非常に特異な存在です。一般に金属加工では、精度を得るために大型の機械と複雑な工具が必要とされ、その大きな投資額の回収には大量生産をすることが不可欠です。
A2 絞りを待つ 3mmのアルミブランク材

ところが、ヘラ絞りは柔軟性があるので、試作品から、少量、中量、大量生産まで幅広く対応できます。加工によって金属学的に優れた結晶構造が得られるという利点を失うことなく、各種形状と板厚の穴あき製品を簡単に製造することができるのです。

さらに、ヘラ絞りは他の加工方式と違って、数学的な法則や関係に縛られることもありません。もっとも、製品の品質を維持するためには、形状、寸法、板厚、表面構造、仕上げなど関連する項目について考えておく必要はあります。米国ウインスコンシン州にあるレークジェネバ・スピンダストリー社のダウニング副社長は、「機械は年々変わって来ましたが、絞り加工中に起こっている現象とその結果はずっと同じです。加工中の板厚の変化を計算する式など、多くの計算式はドイツで考えられたものですが、その科学的な根拠は未だに明らかにされておらず、純然たる経験式と言っても過言ではありません。」 と言っています。
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絞り加工中のアルミブランク材

「ヘラ絞り加工には多くの要素が絡んでいるので、ヘラ絞りの技術を修得するには10年はかかります。」

最新式の絞り機では、すべり移動、必要な作業ローラーの数、加工速度などについての最適条件を選択できるようになっています。
A4 仕上げ段階。3mm程度の仕上げ精度が一般的であるが、0.8mm或はそれ以上の精度も可能である。

ヘラ絞りで使用する工具は簡単なもので、一般的は、仕上げに適した形状を有する木製または鋼製の抑え棒だけが使われます。それでも仕上げ処理を必要としないほど高い加工精度が得られます。

絞りに際しては、素材(ブランク)の円盤は心押し台に据付られた圧力パッドで回転チャックに固定されます。円盤はその状態で回転し、2軸で制御されるローラーが次第に円盤を成形していき、抑え棒あるいは回転チャックの形状になるまで加工が続きます。
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前図のブランクから絞られた最終製品

金属はローラーとブランクの間の接触点周辺で加工可能状態になります。そこでは接線方向の圧縮応力と円周方向の引張応力が重複して作用します。そのため、板厚は加工中を通して一定に保たれます。

ビーディングやプロファイリングなどの二次加工は初期設定通りに行うことができます。それを素早く行うために、各種の成形ローラー、絞りホイール、旋盤などが用いられます。
ヘラ絞り工場

レークジェネバ・スピンダストリー社は、1951年にウィンスコンシン州レークジェネバの小さな町工場としてスタートし、現在では、全自動および半自動を含めて46台の旋盤と27人の熟練工を擁する全米一のヘラ絞り工場に発展しています。

また、安定した製造を行うために、金型工場、粉末コーティング設備、スタンピング工場、電気モーター修理工場などの関連施設と26人のスタッフも有しています。
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ヘラ絞りは、他の方法では成形できない特殊形状の製品でも加工が可能です。

板厚が 6.5mmまでの鋼、アルミ、黄銅、青銅、銅、モネル、インコネル、ハステロイ、純銀、亜鉛メッキ材など様々な金属材が加工の対象になります。加工可能なブランク材の最大径は 2.1m で、加工可能な形状は、円錐形、半球形、円筒形、瓢箪形、釣鐘形、皿形、などで、製品形状によっては分割することも出来ます。

ブランクが円盤型で供給可能なアルミ以外の材料はシート材としてで供給されるので、工場内で円形剪断機によって円形のブランクに切り抜き、100トンプレスで穴を開けておきます。

「当社の製品の用途は非常に多岐にわたっており、宝石箱の見切り縁から、山羊の搾乳桶、ロールスロイスのヘッドライトリング、調理器具、照明器具、マイクロ波アンテナ、スタジアムや自動車展示場の照明器具まで無数にあります。」 と営業担当のブエッテル氏は述べています。
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ヘラ絞りは簡便な加工法なので、試作品や短いサイクルの製品に適しているが、それには熟練した技術が必要で、修得には10年かかる。

レークジェネバ社は多くの会社の試作品も製作しており、それが成功して大量生産に結びつくことを願っています。ブエッテル氏によると、「ヘラ絞りは融通性が高いので設計上の問題点が見つかれば直ぐに修正可能という大きな長所があります。低い設備費、迅速な起動、簡単な加工法の変更などは、顧客にとっても大きなメリットになることでしょう。」
ヘラ絞り加工法の特長

他の加工法に比べて、ヘラ絞り加工は次のような特長を有しています。

  • 加工の変更が容易に出来ます。
  • 製品の数量、公差、容量などに対して自由に対応できます。
  • 設計上の要求に合わせた加工が可能で、公差も自由に調整できます。
  • 設計変更が容易。特に寸法を小さくする場合は、工具を少し機械加工するだけで変更することが出来ます。工具は単純形状なので低コストである。通常は鋼、工具鋼、或はメハナイトなどで作られますが、短期の使用にはカエデ材または複合材を用いることもできます。
  • CNCやCNC再生技術を用いた全自動スピニングマシンも出ており、厳しい公差と安定した品質で大量生産を行うことが可能になっています。今では、ヘラ絞りは単なる短期製造の目的だけに用いられる加工法ではなくなっています。
  • ヘラ絞りを他の製造技術と組み合わせて用いることが出来ます。例えば、前加工として深絞りや鍛造が用いられるケースも多くあり、また前加工で、圧延あるいは溶接のシリンダーを作っておく場合もあります。
  • 絞り加工によって材料の結晶構造が緻密になり金属学的な性質が改善されます。引張り強さが増大するので板厚の薄い材料を使用することが可能になります。
  • 製品ができるまでのリードタイムは通常、4〜6週間ですが、これは、他の加工法においては工具の製作時間にしかならないのです。